まずは、論文についてご紹介。
笠井教授ら4人は2012年、その名も「Relationship Between Brassiere Cup Size and Shoulder-Neck Pain in Women」(女性のブラジャーカップのサイズと肩こりの関係)という論文を、オンライン雑誌「The Open Orthopaedics Journal」で発表しました。
この論文の狙いは、成人女性のバストサイズ、ブラジャーのカップサイズと、肩こりの相関関係について明らかにすることです。
調査には、三重大の二つの関連病院の看護師、薬剤師、調理スタッフなど計339人の女性が協力。
参加者は、
①トップバストのサイズ(㎝)
②ブラジャーのカップサイズ(A以下、B、C、D、E以上)
③肩こり程度(痛みなし、少し痛い、とても痛い)
などを匿名で自己申告。
このデータに基づいて論文は書かれました。
笠井教授らは「肩こりの程度」に影響しているのが「①トップバストのサイズ」なのか「②ブラジャーのカップサイズ」なのかを分析しました。
「①トップバストのサイズ」と「③肩こりの程度」の関係を調べたところ、そこには相関関係がありませんでした。
そこで「②ブラジャーのカップサイズ」と「③肩こりの程度」を分析。
A以下~Cを「小さい」、D、E以上を「大きい」として二つのグループに分けて調べたところ、「大きい」グループでは「とても痛い」と訴える割合が多いことがわかったのです!
肩こりに影響するのは胸囲ではなく、カップサイズ!
D、Eカップの女性は、それ以下のカップの女性よりも肩こりで辛い思いをしている。
でもここでちょっと疑問が。
女性の胸囲というと、トップバストのことを指しますよね。
ブラのカップサイズは関係するけど、胸囲は関係しないというのはどういうこと?
すこし混乱していると、笠井教授は以下のように説明してくれました。
「トップとアンダーの差から導き出されるカップサイズと違い、胸囲は太っている、痩せているといった体格に影響されます。胸囲が関係しないというのは、肩こりはそうした体格が影響するのではなく、乳房の大きさが=ブラのカップサイズが影響する証左です」
余談ですが、Dカップ未満・以上で分けたのは統計学的な理由によるもので、笠井教授の思う「大きい」の基準がDカップだったというわけではないそうです!
なぜこのような調査をしようと思ったのか。
笠井教授は「同僚の看護師から『おっぱいが大きいから肩がこる』という話を聞き、本当なのか気になっていたんです」と明かします。
また、整形外科において、男性の訴える症状でいちばん多いのは腰痛。一方女性は肩こりで「この男女差の理由がわかっていないので、胸が原因なのではと考えた」ことも調査のきっかけとか。
実際に調査してみて「Dカップ以上の人がこんなに多いとは思わなかったので、とてもびっくりしました」と笠井教授。今回の調査では、Dカップと申告した人は72人、Eカップ以上は63人でした。
そして、論文については「Dカップ以上の女性に強い肩こりが多いという、具体的な結果が得られたことは収穫」と評価します。
それにしても、女性に肩こりが多く、その理由がはっきりしていないのなら、この種の研究がもっとあってもいいのでは、と思いますよね。ですが、実際には同様の研究はほとんど見当たりません。
その理由は倫理面。
「バスト」、しかも「大きさ」をテーマにするわけですから、非常にセンシティブなものとなります。調査し論文にするには、大学の倫理規定や倫理委員会をパスする必要もありますから、なかなかに高いハードルとなっています。
実際この論文も、学会で女性研究者を中心に「倫理的に問題があるのでは」との指摘があったそうです。
一方、耳目を集めたのも事実で「ネットでも反響があり、非常に意義があり大事な調査だと感じました」と笠井教授は語ります。
「データが自己申告に基づくなど、この論文の調査手法が完璧でないのはわかっています。そして、こうした調査の必要性も。なので、資金面などで体制が整うのであれば、より科学的な調査がしたいと考えています」としていました。
いかがでしたか。
この論文、気になった方は全文を読んでみては?
色々と制約があるとのことですが、グラマー女子からすると、もっと研究が進んでほしいテーマですよね。今後の研究の発展に期待です!
笠井裕一(かさいゆういち)教授
三重大学大学院医学系研究科(脊椎外科・医用工学)教授。
背骨の手術実績は4000例以上で、ミャンマーを中心に海外でも活躍。身体の痛みの治療専門医で、「痛み」に関する様々な研究も行う。今回の論文もその一環。
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